コラム 2020.06.01

むち打ち損傷の痛みとは?

車の追突などで起こる「むちうち」。皆さんも一度は聞いたことがあると思います。医学的用語では、「むち打ち損傷」(外部性頚部症候群)と言います。「むち打ち損傷」による痛みについて、また、最適な治療法について、大阪行岡医療大学医療学部教授・三木健司先生に詳しく解説してもらいます。

「むち打ち」は、自動車事故などで「首」に外力が加わったあとに様々な痛み、しびれなど不快な症状が出るものです。日本では「むち打ち」は一般的に広く認められる怪我ですが、国によってはそういった疾患概念が無いところもあります。ギリシャ、リトアニア、スペインでは日本のようなむち打ちが無いとされています。また最近カナダ、オーストラリアでもむち打ちに対する補償が無くなり、事故後の身体的・精神的健康度がより改善したと報告されています。

痛みは「痛みは、実質的または潜在的な組織損傷に結びつく、あるいはこのような損傷を表わす言葉を使って述べられる不快な感覚・情動体験である」と国際疼痛学会で1979年に定義されています。痛みは「怪我した時の肉体的な痛み」以外にも「心理的な理由で生じる痛み」があるとされており、このことは「「多くの人々は、組織損傷あるいは、それに相応した病態生理学的原因がないのに痛みがあると報告するが、これは通常心理的な理由で生じる。」と説明されています。

では、車が追突されたときの身体にかかる外力は大きいのでしょうか?力学的研究では35kmの追突にて約10Gの加速度となり、10Gの加速度は20cmの階段から両足で着地したものと同じで、20㎞では友人に肩をぽんと叩かれた衝撃(4G)とされています。実際の追突時の衝撃はかなり小さいとされています。最新の調査では「むち打ち」の治療日数の調査では「加害者に対する怒り」(社会的不公平感)が大きいと治りにくいことが明らかになりました。また女性、高齢、頚部以外の怪我があること、治療開始までの日数が短いことが治療の長引く要因でした。しかし、自動車の物損金額、相手車種、衝突様式(追突、正面衝突など)は関係しませんでした。医療機関以外の医業類似行為の施術では治療期間は短くなりませんでした。

「むち打ち」に会ったときはどうしたら良いの?

昔は頚椎カラーやマッサージ、ブロックなどを行っていましたが、最新の国際的に推奨される治療法は、診察にて神経損傷が無ければ、仕事や日常生活にすぐに戻ることが早く治る秘訣です(表1)。運動療法は効果あるとされており、鎮痛剤の内服は数日までの短期間で終了するほうが良いとされています。追突されたら加害者に腹が立つと思います。しかしあまり怒ると余計に痛みが増えてしまう原因になることが調査で判明しているのでもし(表2)のような気持ちが大きいなら少し気持ちを切り替えるほうが自分のためになります。事故は避けることができれば良いのですが、大型車両に追突されたり、またバイクが自動車に追突したり様々です。しかし、大型車両がぶつかっても、バイクのような軽いものが追突しても治療期間は変わりませんでした。つまり日本での「むち打ち」の怪我は身体の怪我ではなくて、むしろ心の怪我と考えてはいかがでしょうか?起きてしまったことは仕方がありませんので、前を向いて日常生活を過ごしていきましょう。

表1

表2

●PROFILE

三木健司(みき・けんじ)

大阪行岡医療大学医療学部特別教授、早石病院疼痛医療センター長、認定NPOいたみ医学研究情報センター理事

 

 

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