コラム 2020.12.07

コロナ禍の整形外科の状況について

2020年、世界中が「新型コロナウイルス感染症」の感染拡大に脅かされました。日本では、4月に政府の緊急事態宣言が発令以降、私たちの生活は一変し、また医療現場の逼迫した状況が連日、報道されました。そんな中、これまで通院していた患者さんや何らかの症状があって病院に行こうと思っていた方も、感染リスクを考えてためらったことと思います。では、実際のところ、コロナ禍の整形外科はどんな状態だったのでしょうか。今回、杏林大学整形外科教授・森井健司先生に「コロナ禍と整形外科について」伺いました。

「CIVID-19」と整形外科の診療について

  整形外科は、「新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)」を直接診療する科でありませんが、整形外科診療に及ぼすCOVID-19の影響は決して小さいものではありません。整形外科が扱う運動器(骨、関節、筋肉、神経、靱帯など)の疾患および外傷の治療、処置、リハビリテーションでは、患者さんと密接な接触を伴う場面が多いからです。

 日本整形外科学会では、今年4月にCOVID-19感染拡大に対する対策を講じました。例えば「基本対策」として、密閉空間、密集場所、密接場面の『3密』を避けるべく、待合室の換気の徹底、人数を絞った予約診療などの人数制限を行うなどをしました。待合室並びに診察室などの徹底した消毒の励行を徹底しました。その他にもたくさんあります。

1,3つの密(密閉、密集、密接)を避ける行動
 人数を絞った予約制、待合室の換気、人数制限、車中待機など

2,咳や発熱を伴う患者用の別スペース・動線確保(確保できない場合は他医療機関を紹介)

3,患者(付き添いも)の体温測定

4,咳の有無、発熱者との接触歴、感染拡大地域への滞在歴などに関する問診

5,スタッフ、患者双方のマスク着用

6,患者ごと診察前後の手洗い・消毒

7,患者自身の手洗い

8,待合室、診察室における高頻度接触部位(ドアノブ、キーボード、マウス、タブレットなど)の定期的消毒

 また、患者さんが通院する回数を少なくするために、薬剤の長期処方や、自宅で行えるリハビリ指導なども行いました。

コロナ禍においての手術順位

 病院で行う手術についても対策がなされました。整形外科疾患に対する手術は、対象とする疾患により、すぐに行う必要があるものと待機が可能なものに分けることができます。COVID-19の感染リスクを考え、手術を「延期すべき」、「延期を検討する」、「延期すべきではない」といった3段階に分類し、それぞれの患者さんに対して慎重に判断を行うこととしました。

 この理由についてですが、整形外科の手術自体はCOVID-19の直接的な影響を受けるものではありませんが、そもそも手術は整形外科の医師だけではなく麻酔科の医師や看護師、検査技師、理学および作業療法士などのスタッフがチームで行う医療です。また、術後には集中治療室の確保も必要となります。COVID-19の蔓延に伴って、先の読めない状態でCOVID-19の診療に人的資源が必要とされる可能性があり、病院全体のキャパシティを考えたときに、待機が可能な整形外科の手術を控える必要があったのです。しかしその一方で脊髄の進行性麻痺、開放骨折や悪性腫瘍など急を要する状態に対する手術は適応を変更せず、速やかに対処することを私どもの診療科全体で申し合わせ、患者さんの不安とならないように配慮しました。

 ただし、これは今年7月頃までのことで、現在(2020年11月)は、コロナ前とほぼ同じ診療および手術が行えるまでに回復しています。しかしコロナ前と全く同じ状況という意味ではありません。「COVID-19」の感染対策は万全にしたうえで、また、刻々と変わる感染状況を見て、非常に慎重な判断の下で行なっているということです。ですから、整形外科を受診される患者さんは、安心して受診をしていただければと思います。

 

延期すべき…

外来手術、生命を脅かすことがない。

・手根管開放術、関節鏡手術など

延期を検討する…

生命を脅かすことはないが、将来的には病的状態や死亡率に影響する。 入院治療を要する。

・人工関節置換術、待機できる脊椎手術など

延期すべきでない…

早期治療を要する。

・脊髄・神経麻痺、外傷、開放骨折、悪性腫瘍など

 

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