亜鉛不足で体はどうなるの?「亜鉛欠乏症」が“文明病”と言われるワケ
免疫力がアップし、風邪予防やアンチエイジング、脱毛予防も叶うかもしれない、亜鉛を摂りさえすれば――こうしたメディア報道を目や耳にしたことのある人も多いのでは? 実際、昔に比べて、街のドラッグストアなどでも亜鉛のサプリメントをよく見かけるようになりました。
亜鉛は、骨や筋肉、肝臓、腎臓、脳などに含まれる人間の体内で作ることができない必須微量ミネラル。その役割は、主に発育や成長の促進、ホルモンの合成や分泌の調整、DNAやたんぱく質の合成、ウイルスなどに対抗する免疫力、肝臓の働きや味覚・嗅覚、生殖機能の維持など多岐にわたります。亜鉛は体内に約2〜3gしかありませんが、人体にとって欠かすことのできない重要な元素なのです。
しかもこの亜鉛、実はアンチエイジングどころか、不足すると人体にもっと深刻な問題を引き起こす――そう話すのは、日本亜鉛栄養治療研究会顧問を務め、20年以上にわたりさまざまな症状の亜鉛欠乏症の患者を診てきた外科医・倉澤隆平先生です。
「亜鉛欠乏による症状は実に多彩で、かつそれぞれが複雑に絡み合っているのが特徴です。昔から、亜鉛欠乏により味覚障害が起こることはわかっていました。ただ、他の疾患でも起こりうる症状も、実は亜鉛不足が関係していることが徐々にわかってきたんです」(倉澤先生・以下同)。
倉澤先生によれば、亜鉛欠乏症によって引き起こされるのは、①味覚障害、②食欲不振、③舌痛症、④褥瘡じょくそう、⑤皮膚の生成・維持の障碍、⑥その他に大別できると言います。これらの欠乏症状・欠乏疾患は、それぞれが併発することも多く、注意して追跡することで芋づる式に欠乏症状・欠乏疾患の存在を確認できるとのこと。一つずつ見ていきましょう。
まずは飲食物の味が判別できなくなる①味覚障害。これは味蕾細胞の機能や酵素系、神経系等々が関与して起こるとされています。単独で発症することもありますが、実際には舌痛や口腔内違和感、皮膚症状・皮膚病変などの亜鉛欠乏症状を合併して発症する場合が多いのが特徴です。
続いて②食欲不振。軽症から拒食に至る深刻なものまでさまざまですが、高齢者が「歳のせいで食べられない」とか「腹がもたれる」と訴えるケースの多くは亜鉛欠乏によるものだと倉澤先生。ちなみに、味覚障害だから食欲不振に陥る、という考え方は間違いだそう。「味覚がおかしくても、空腹を感じれば食べるはず。つまり味覚障害と食欲不振は分けて考えるべきなんですが、ここが混同されやすいのです」
また、③舌痛症とは、舌や口腔内に痛みを感じる症状ですが、一部の特殊なものを除き、これまた亜鉛欠乏症の可能性が高いと倉澤先生。痛みに反して見た目にまったく異常がないことが多いのも特徴です。また、しばしばアフタ性口内炎、口角炎を合併することがあり、亜鉛投与により治癒する場合が多い症状です。
そして④褥瘡(じょくそう)。俗に言う“床ずれ”です。一般的に、褥瘡は寝たきりによる慢性的圧迫による血行障害が主な発症要因とされていますが、それはあくまできっかけに過ぎず、実際には亜鉛欠乏による代謝異常により、皮膚の生成・維持が困難になることが主因だと倉澤先生は指摘します。
続いて⑤皮膚の生成・維持の障碍も、やはり亜鉛不足が関与しているパターンが多いと倉澤先生。例えば腸性肢端皮膚炎、老人性皮膚掻痒症、高齢者の皮膚の脆弱性で起こるさまざまな皮膚疾患などがここに含まれます。
最後の⑥その他は、生殖・繁殖機能の低下や貧血、免疫低下など、これまで認知されてきた亜鉛欠乏症状に加え、倉澤先生の長年の診療経験から、亜鉛欠乏との関連が予測されるもの。例えば下痢や骨粗鬆症、花粉症、慢性疲労などもこれに当たります。
なお、体内に亜鉛がどれほどあるかを計るためには、血清亜鉛(濃度)値を見ますが、身長や体重のごとく適正値が個々人で異なるため、値の変化と症状の経過を、時間をかけて根気よく見ていく必要があります。
亜鉛欠乏セルフチェック!
□食欲はある?
□3度の食事は美味しい?
□舌に痛みや違和感はない?
□皮膚疾患(爪・口角炎・口内炎など)はない?