痛みの治療薬にはどんなものがあるか? 矢吹省司(福島県立医科大学保健科学部 学部長)
痛みに対する薬治療
痛みを有している日本人成人は2000万人以上と言われています。厚労省の調査では、腰痛、肩こり、関節痛が上位の症状です。皆さんはどんな対処をしているのか? 我々が行った3ヶ月以上続く慢性の痛みに関する調査の結果では、病院を受診する人が65%、ドラッグストア等での薬購入が40%であり、自己対処する人が58%、特に何もしない人が31%でした(複数回答あり)。病院では薬を処方されることが多いと考えると、多くの人が薬による治療をしていることがわかります。
痛みのメカニズム
医師は、痛みのメカニズムを考えて、それを改善するために薬を選択して処方しています。痛みが起きるメカニズムは3つ考えられています(図1)。
図1 3つの痛みのメカニズム(文献を参考に著者作成)
a:侵害受容性疼痛
組織の損傷、あるいは損傷の危険性がある場合に生じる痛みであり、侵害受容器(痛み刺激を受けて電気信号に変える組織)の活性化により生じる痛みです。強い刺激が加わって、組織が傷ついて、それらの刺激を感じる受容器が反応するとともに、炎症が起きて痛みを感じる、いわゆる通常の痛みです。
b:神経障害性疼痛
侵害受容器や痛覚伝導路を含む体性感覚神経系の損傷や疾患によって生じる痛みです。神経自体が痛んだために痛みを起こしている状態です。電撃痛や刺激に対してすごく過敏になって(感作と言います)、強い痛みとして感じることが多いです。
c:痛覚変調性疼痛
侵害受容の変化によって生じる痛みであり、組織損傷またはそのおそれがある明白な証拠、あるいは、痛みをひきおこす体性感覚系の疾患や傷害の証拠がないにもかかわらず生じる痛みです。簡単に言いますと、組織の損傷がない、神経にも異常がない、でも痛い、という状況です。神経に異常はないが神経に感作が起きて刺激に敏感になっている状況、下行性疼痛抑制系の働きが減弱している状況などが考えられます。
痛みに対して処方される薬と主な副作用
では、どんな薬が処方されるのか? 現在、痛みに対して処方される主な薬には表1のようなものがあります。薬には痛みを軽くする作用はもちろんありますが、副作用も出る可能性があります。どんな副作用があるのかを事前に知っておけば、もし何か新たな症状が出た場合に薬が関係している可能性について考えることができます(表2)。医師や薬剤師からも説明を受けると思いますが、ここでも確認してみてください。そして、もし何らかの症状が出現して、薬の副作用ではないかと疑わしい場合は、処方してくれた医師に相談してみてください。
表1 痛みのメカニズムと処方される主な薬剤
表2 薬剤の主な副作用
文献
- 古江秀昌ほか. 侵害受容性, 神経障害性, 痛覚変調性疼痛の区別. 痛みの教科書. 日本いたみ財団編. 東京, 医学書院, 2021, 6-7.