疾患ナビ 2023.09.11

首・肩の痛み+体のしびれ=超危険! 整形外科医が教える、本当は怖い「肩こり・首こり」

「あ〜、肩こった!」と言いつつ肩をトントン。日常的によく見かける光景ですよね。事実、首や肩に痛みを覚えている人は日本に約1000万人いるとも言われています。しかし、ただの肩こりと侮るなかれ。

「肩や首のこりに、“しびれ”が加わると非常に危険です」と警鐘を鳴らすのは、自治医科大学整形外科教授で整形外科医の竹下克志先生。実はとんでもなく危険な肩こりもあるというのです。

というわけで今回は、竹下先生に肩や首のこり+しびれがもたらす症状とそのメカニズムについて伺いました。

――首・肩のこりに「腕のしびれ」が加わると危険な理由は?

 

 首や肩がこる原因のほとんどは筋肉疲労からくる痛みです。この場合、姿勢を正したり、適度な運動を行うことで改善できます。しかし、腕にしびれがある場合は別。これは危ない症状です。

 なぜかと言えば、頚椎の病気が疑われるからです。頚椎に原因がある病気で代表的なのは「頚椎症」と「頚椎椎間板(けいつい・ついかんばん)ヘルニア」。日本ではそれぞれ数十万人の人がこの病気を患っています。

 背骨(脊椎)は、もともと椎骨という小さな骨が積み重なって構成され、その中を脊髄や神経根が通っているわけですが、上から7番目の椎骨までが「頚椎」。通常、「首」と呼ばれるのはこの部分です。

 椎間板は、椎骨と椎骨の間にある軟骨で、前後左右に動かす、回す、衝撃を和らげるなどの役割があります。首には体の運動機能に関わる神経組織が集中しており、一度神経を傷つけると自然に回復することはありません。

 

――頚椎症とは具体的にはどんな病気ですか?

 これは主に50代以降の世代に多い病気です。加齢などによって、骨と骨の間にあるクッションの役割を果たす椎間板に亀裂が入ったり、つぶれたりすることで起こります。

 頚椎が不安定になると、椎骨の端に骨棘(こつきょく)と呼ばれるとげ状の出っ張りができます。これが脊椎の中を通る脊髄や神経根を圧迫するんですね。すると痛みが出る。で、痛かったり楽になったりしながら、ゆっくりと進行していきます。

 

――頚椎症の主な症状は?

・頚椎症状

 まずは頚椎症状からすべてが始まります。

 これは変形した椎骨が、動くたびに神経を圧迫・刺激することで、首筋から後頭部、首から肩にかけて痛みやこりが出る症状。同時に、頭痛や目の疲れ、めまい、耳鳴りを伴うことも。

 この頚椎症状の期間が長く、ゆっくり進行しながら、後述する神経根症状や脊髄症状につながっていきます。

 

  • 神経根症状

 頚椎から出る神経は腕から指先へと延びています。神経根の近くで問題が生じると、どの神経根が圧迫されたかによって、現れる症状が違ってきます。

・手の指を広げられない。手首付近からひじにかけての外側の感覚異常(第1頸神経根)

・呼吸がしづらくなる(第3・第4頸神経根)

・ひじを曲げられない。腕を上げられない。ひじから脇の内側の感覚異常(第5頸神経根)

・手首を反らせない。親指と人差し指の先からひじにかけての感覚異常(第6頸神経根)

・ひじを伸ばせない。中指の先から手首にかけての感覚異常(第7頸神経根)

・手の指を握れない。薬指と小指の先から手首にかけての感覚異常(第8頸神経根)

ひじを伸ばす筋肉を支配する7番目の神経根が圧迫されるケースが一番多いです。

  • 脊髄症状

 頚椎症のなかで特に危険なのが脊髄症状です。

 まず両手の手指にしびれが現れ、手指の動きが悪くなり、細かい動作がしづらくなる「巧緻(こうち)運動障害」に陥ります。巧緻(こうち)運動障害とは、箸がうまく使えない、字が書けない、ボタンがとめられないなど、細かい作業に支障をきたす状態です。

 進行すると脚にも症状が現れます。例えば脚のしびれや歩行障害などですね。また、脊髄は排泄などをコントロールする信号も送っているため、かなり重症になると、排泄異常に至ります。例えば、以下のような症状があったら、頚椎症がかなり進んでいることが予想されます。

・両手のしびれ:両手の手指がジンジン・ビリビリして感覚が鈍くなる

・手指の動きがぎこちない:字が書きにくい、箸で小さいものをつかめない、ひもが結べない

・歩きにくい:脚が突っ張って歩きにくい、階段の下りが怖い、つまずきやすい

・排尿の異常:尿が出にくい、残尿感がある、頻尿や尿漏れ

脊髄障害は長引くと回復が非常に困難になります。絶対に放置せず、すぐに整形外科をはじめとする専門医にかかりましょう。

 

 

・プロフィール

竹下克志(たけした・かつし)先生/整形外科医。自治医科大学整形外科教授。脊椎外科、痛み、バイオメカ、アウトカムを専門とする。著書に『そうだったのか!腰痛診療:エキスパートの診かた・考えかた・治しかた』(共著・南江堂)などがある

 

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