運動器の健康・日本賞

平成24年度 運動器の10年・日本賞

審査委員による選評

当協会では、今般の応募申請審査に当たり、理事の中から5名と賛助会員(ゴールド)2社から審査委員に参画していただき、下記の7名による審査委員会で厳正な審査を行いました。

審査委員
松下 隆
専務理事
武藤 芳照
業務執行理事
稲波 弘彦
業務執行理事
新井 貞男
広報担当理事
三上 容司
理事
寺西 勝司
小野薬品工業(株) 営業企画統括部長
田中 明生
中外製薬(株) 営業本部副本部長
運動器の10年・日本賞 選評
応募事業・活動の名称
成長期投球障害予防のための組織及びシステムの構築
応募団体・個人
新潟リハビリテーション病院

 本事業は、成長期のスポーツ障害予防のシステムを構築するためのモデルとして行われた。成長期の野球肘は予防が最重要課題であるが、小中高等学校の縦の連携も、治療を行う医療側の横の連携も十分とはいえない。応募者らは新潟市で2006年から医師、理学療法士のボランティアによる野球肘検診および研修会を通じて野球肘予防の啓発活動を開始した。そして2011年には、小学生から高校生まですべての野球組織が連携した「新潟県青少年野球団体協議会」と整形外科医と理学療法士からなる「野球障害ケア新潟ネットワーク」とを発足するに至った。

 また本年5月には野球障害の検診や治療の内容を経時的に記載できる「野球手帳」を作製し、県内の小学5年から中学2年生の少年野球選手全員の約10,000人に配布した。今後は毎年小学5年生への配布を計画している。この野球手帳には成長期のスポーツ障害の対応の仕方、特に野球肘予防についての情報も記載されており、今後はこの手帳を通じて、選手を中心に組織の縦横の繋がりが密となり、野球肘の予防体制が定着していくことを目指している。

 本事業は、長年にわたる周到な準備をもとに、県内全体の野球障害予防システムを確立したといえるとともに、所期の目的である成長期のスポーツ障害予防のシステムを構築するためのモデルとなっており、このことが高く評価された。

松下 隆 審査委員
運動器の10年・優秀賞 選評
応募事業・活動の名称
被災地健康運動支援とロコモ予防ソング
応募団体・個人
佐々木整形外科麻酔科クリニック 介護老人保健施設せんだんの丘

 東日本大震災被災者に対して運動器の健康維持・増進活動目的で開発したロコモ予防ソング「ロコモかしこもサビないで」は実に素晴らしい内容である。歌詞にロコチェックが挿入され、曲に合わせての体操に、ロコトレの動作とストレッチングを取り入れてあることによるアピール度と実効性は秀抜である。またロコモの講義と実技の修了者を「ロコモボーイ・ガール」と名付け、地域住民の指導を担当させるというアイディアも非常に優れている。

 東日本大震災の被災地に対する援助活動が徐々に熱が冷める傾向もある中、この活動が今後も継続し、広がっていくことを切に願っている。

稲波 弘彦 審査委員
応募事業・活動の名称
子どもから大人まで、すべての人々の運動器が健康になるまちづくり
応募団体・個人
身体教育医学研究所うんなん

 「身体教育医学研究所うんなん」の活動は、全ての年齢層に対して行われていること、および介入成果を検証し、絶え間なく改善を行っていることが大きな選出理由である。なかでも「腰痛・ひざ痛予防の運動キャンペーン研究」は「腰痛・ひざ痛は動いて治そう」といった有効なキャッチフレーズのもとに多くの機関が参加し、有効性を科学的に評価・検証している点が抜きん出ていた。また住民ネットワークを生かした口コミ普及なども独創的である。運動器の健康増進に対する有効性の高い活動を全ての年齢層に対して行い、それを科学的に検証、改変し、継続的に行っていることは非常に素晴らしい内容であると評価された。

稲波 弘彦 審査委員
運動器の10年・奨励賞 選評
応募事業・活動の名称
高校における学校保健の支援事業
応募団体・個人
一般社団法人 アスリートケア

 高等学校生徒への理学療法士による学校保健活動の先進的な取り組みである。運動器疾患・障害の予防という基本目標の下、学校長、学校医、養護教諭らと連携して、健康相談、予防プログラムの指導、総合的学習の時間等を活用した授業、トレーニングやテーピング等の指導等、多彩な活動を、系統的にかつ組織的に実践している。今後の「スクールトレーナー」制度の確立のモデルとなる極めて社会的・教育的意義が高い事業と評価された。

武藤 芳照 審査委員
応募事業・活動の名称
TCOAによる運動器の10年・骨と関節の日啓発活動
応募団体・個人
東京都臨床整形外科医会

 本事業は、運動器の10年・骨と関節の日の市民への啓発活動として、毎日新聞朝刊に広告を掲載し、運動器という言葉の周知度の向上と運動器が健康に密接に関係する器官であることを一般市民に知ってもらうように努めた。また、「骨と関節の日一日電話相談」として運動器疾患に関する相談に応じたり、「運動器の10年」世界運動のロゴマークを掲載したポスターを500部作製し、医療機関や近隣の調剤薬局に配布・掲示するなど、積極的な運動器の啓発活動が評価された

新井 貞男 審査委員
応募事業・活動の名称
運動器の手入れ・改善の意味の理解と日常的実践につながるために
応募団体・個人
地域いきいき健康クラブ

 「地域いきいき健康クラブ」は独自の体操や体力測定方法を創作し、また“体力づくりダンスパーティー「メリアワンダー」を主催することで、地域の壮年者に楽しく運動器の健康増進を推進している点など、その熱意と工夫は非常に優れている。また「体の手入れメニュウ」は高齢者の膝・腰・股関節・肩・首の痛みをやわらげ、筋力増強に有効であり、随所に見られる創意と工夫は他に見られない優れたものである。

稲波 弘彦 審査委員
応募事業・活動の名称
誰もが「動く喜び 動ける幸せ」を共に感じることができる遊歩道整備の取り組み
応募団体・個人
社会福祉法人みまき福祉会

 保健・医療、福祉の先進的形態と運営の総合施設の中庭に、遊歩道・ウッドデッキを設置し、多様な行事やプログラムを通して、施設内高齢者にとどまらず、地域住民全体の身体活動の向上の意識を高める斬新かつ創造的な取り組みである。要介護、虚弱高齢者が車椅子や歩行器を使用しての散歩、夏祭りでのウォークラリー、ウォーキングを組み入れた介護予防教室等、「からだを育み、心を育み、絆を育む」効果をもたらす、極めて有意義な事業と評価された。

武藤 芳照 審査委員
応募事業・活動の名称
高齢者運動器機能検診を取り入れた運動器機能維持事業
応募団体・個人
菅 栄一 氏(カシオペア転倒予防研究会)

 本事業の優れている点は、この事業によって高齢者自身が継続して運動器機能向上に向けた努力を続けている点にある。結果として明確な運動機能向上につながっている。行政との連携で特定健診に取り入れられたこと、他にはないシルバー運動指導員養成プログラムの実践など創造的な活動と言える。今年度は運動の盛り上げのため多数の媒体を通じ運動器の重要性啓蒙活動に注力され、過去から継続した活動が着実に深耕し、成果に結びついていきつつあることが伺い知れる素晴らしい活動であった。以上、本事業は今回の運動器の10年活動表彰趣旨に十分合致しているといえる。

田中 明生 審査委員
応募事業・活動の名称
小・中学校における運動器教育-関節磨きと姿勢指導の取り組み-
応募団体・個人
中村 崇 氏(佐久平整形外科クリニックスポーツ関節鏡センター)

 中村氏は理学療法士として長く地域医療に関わってこられた。今回応募された取り組みは、その経験を生かし、中高齢者への指導に偏りがちであった運動器疾患について学童期から教育する事により『運動器の大切さ』『動ける事の楽しさ』を示した貴重なそして個性溢れる事業であると思われた。本事業は小・中学校における運動器教育の必要性について応募者が自ら学校に出向き、生徒・教師・PTAに骨関節管理の大切さに関する講演や運動指導(関節磨きと姿勢指導)を行い、継続的な運動に発展している。更に将来を見据え、学校校医・整形外科専門医・専門職の協力を訴え、全国にこの課題を発信しようと活動を続けられている事が表彰根拠となった。

寺西 勝司 審査委員
応募事業・活動の名称
新たな視点に立った21世紀型・腰痛予防対策の開発とその普及啓発の推進
応募団体・個人
松平 浩 氏(独立行政法人労働者健康福祉機構/関東労災病院所属)

 腰痛は、ほとんどの人が一生のうち一度は経験するありふれた症状である。しかし、慢性腰痛は、生活の質を下げるとともに仕事にも支障をきたし、社会に多大な経済的損失をもたらす。腰痛の85%が原因の特定できない非特異的腰痛であることが、問題解決の障壁になっていることは間違いない。松平氏は、このとらえどころのない腰痛に対して、エビデンスに裏付けられた新しいコンセプトで挑み、それを平易な言葉、文章で語った。この活動は、まさに“動く喜び 動ける幸せ”の基本理念の普及啓発に資するものである。今後の更なる発展に期待したい。

三上 容司 審査委員
応募事業・活動の名称
宮崎における運動器に関する啓発支援事業
応募団体・個人
帖佐 悦男 氏(宮崎大学医学部整形外科学教室所属)

 本事業は、ロコモティブシンドロームの啓発・予防に、子供から高齢者まで幅広く展開し、さらに「健康スポーツナース」制度を立ち上げ、医師、理学療法士が不足している現状打開のため看護師の参画を呼び掛けるなど独自の取り組みが評価された。また、少年野球の運動器検診の実施について、県内のみならず全国の各地区にも呼びかけ、「ロコモの予防は子どもから」を実践している。これらの活動はNHKや地元新聞の連載でも取り上げられ、メディアへの運動器の健康増進に大きな役割を果たしている。これらの幅広い活動が評価された。

松下 隆 審査委員