疾患ナビ 2020.03.10

50歳前後から始まる中高年の「ひざの痛み」放っておいていい?

50歳前後からひざが痛くなる。「歳だから仕方ない」と我慢しているだけの人も多いのではないでしょうか。今回はそんな中高年のひざの痛みや、治療について詳しい高知大学医学部整形外科教授・池内昌彦先生が解説してくれます。

1、放置してはいけないひざの痛み

 中高年になるとひざが痛むことは多く、その原因は主に変形性ひざ関節症です。変形性ひざ関節症は、軟骨がすり減り関節が変形してくる疾患です。日本では、50歳以上の2人に1人が変形性ひざ関節症を有すると推定されています。今後高齢化が進むにつれて、ますます患者数は増えていくことでしょう。さて、変形性ひざ関節症があるからといって必ずしも痛みを伴うわけではなく、痛くない変形性ひざ関節症も少なくありません。その理由は、軟骨に神経がないためであり、軟骨がすり減るだけでは痛みは生じません。痛みは骨や滑膜など神経が存在する部位で発生します。MRI検査で判明する滑膜の炎症や骨の異常が痛みと関連した病態であることが分かってきています。さらに、ひざの痛みが長引くと、痛覚に関わる神経系に変化がみられるようになります。痛み刺激を脳に伝える神経が敏感になる「疼痛感作」と、人間が本来もつ鎮痛機序の機能不全状態(内因性鎮痛機能不全)です。これらの「疼痛感作」と「内因性鎮痛機能不全」によってひざの痛みは難治化することが最近注目されています。

2、痛みの重症度

一般に変形性ひざ関節症に伴うひざの痛みは、重症度によってその特徴が異なります。軽症では、「重い」や「突っ張った」といった違和感があり、歩行開始時や立ち上がった時など動作開始時に軽い痛みを感じます。中等症では、階段昇降や長距離歩行、正座など、膝への負荷が大きくなったときに痛くなります。ただし、休めば多くの痛みは治まります。これが重症になると、運動時の痛みだけではなく安静時や就寝時にも痛みが続きます。重症の痛みには「疼痛感作」や「内因性鎮痛機能不全」といった神経系の変化が関係しています。このような状態では、これまで続けてこられた趣味や運動、日常生活などを続けることが困難になり、不眠や抑うつ状態も来たし生活の質が著しく低下します。幸いなことに、痛みの重症度は軽症から重症へと悪化の一途を辿るわけではなく、生活習慣を見直したり適切な治療を受けることによって改善します。

3、ひざの痛みが悪化する生活習慣

 ひざの痛みは、生活習慣に大きく左右されます。ひざに痛みがあると安静にしがちですが、この運動不足が痛みを悪化させる一因です。運動不足ではひざを支える筋力が低下し大きな負荷がひざにかかるようになります。またひざの周りの組織が固くなり関節の可動範囲が悪くなってきます。さらに運動不足から肥満にもなります。肥満になるとひざへの荷重負荷が増えるだけではなく、痛みにも敏感になります。このように痛みが悪化するとますます動かなくなり、さらに痛みは悪化して悪循環に陥ります。この悪循環を断ち切るには自ら積極的に運動をすることが大切です。肥満の場合には運動に加えて食生活の見直しも必要です。食事の工夫と運動の組み合わせで体重の5%を目安に減量に取り組むとよいでしょう。このほかにも、ひざを深く曲げることが多い和式の生活を避け洋式に変更することや、杖や歩行器などを使用してひざへの負荷を軽減することなども痛みを悪化させない工夫です。

4、自宅でできる運動でひざの痛みが改善

 ひざの痛みがあると薬に頼りがちですが、運動には薬に劣らない鎮痛効果があることが分かってきました。また、運動は薬と違って副作用はなく、鎮痛効果だけではなく体力向上効果もあります。運動によって早い人だと数日で痛みは改善し、継続することによって「疼痛感作」や「内因性鎮痛機能不全」が改善し、痛みに強い体になります。ひざの痛みに対する運動として、①ひざの曲げ伸ばしを行うストレッチ ②ひざ周りの筋力訓練 ③散歩や水中ウォークなどの有酸素運動を組み合わせて行います。大切なことはできるだけ毎日継続して行うことです。最も基本となる筋力訓練はひざを伸ばす大腿四頭筋の筋力訓練で、1日最低20回程度行うのがよいでしょう。

 

 

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