子どものスポーツ事故を防げ! 社会を変える「Safe Kids Japan」の取り組み 〜2020年第8回・「運動器の健康・優秀賞」受賞事業〜
毎年、日本全国各地で行われている各団体・機関および個人の運動器の健康増進活動の最も独創的かつ優れた活動を顕彰している「運動器の健康・日本賞」。2020年度「優秀賞」を受賞した「特定非営利活動法人 Safe Kids Japan」の事業内容である「これで防げる 学校体育・スポーツ事故」についてご紹介します。
子どものスポーツ事故を防ぐために
「Safe Kids Japan」は、小児科医や工学系の研究者で作るNPO法人です。
いま、日本の小中高校で起こる子どもの外傷は、治療が必要なものだけでも年間100万件以上発生しています。これを予防するべく、「Safe Kids Japan」は、2017年に日本スポーツ法支援・研究センターなどと協働し、多職種が連携する研究会を立ち上げて活動しています。
学校でのスポーツ事故が繰り返される背景には、過去のデータを活用した科学的な分析がなされず、効果的な予防策が現場に普及していないことが大きな要因。これを解決するため、データ保有機関、データ分析機関、メディア、NPOなど職種を越えて連携して予防していこう、というのがこの研究会の目的です。現在は、整形外科医、理学療法士、高野連役員、中体連役員らが加わっているほか、大学や企業、国会議員、諸団体からも協力を得て活動しています。
そもそも、研究会発足のきっかけとなったのは、ゴールポストの転倒事故でした。これは2017年1月に、福岡県内の小学校の体育の授業中、ハンドボールのゴールポストが転倒して小学生が死亡するという痛ましい事故でした。
これを深刻に受け止めた「Safe Kids Japan」は、日本スポーツ振興センターと連携し、大規模な事故データの分析を実施。その結果、全国の小・中・高校で2500件を超える事故がサッカーやハンドボールのゴールに関連して起こっていることが明らかとなったのです。特に、重症事故が起こっていたのは、子どもがゴールバーにぶら下がることによる転倒事故。これに関して、センサーを用いた実証実験を行ったところ、児童が一人でぶら下がるだけでゴールが容易に転倒することなど、具体的な危険や対策を数値で示しました。
こうした実験結果を、ゴール事故予防につなげるための実行可能な対策として、3つの「提言」(①ぶら下がらない、懸垂しない、②杭に固定する、③安全な簡易・軽量ゴールの開発と安全基準づくり)としてまとめたうえで、シンポジウムを開催して広く一般に公開。ここで得られたデータや対策法は、NHKや朝日新聞などを通じて広く周知され、これが、文部科学省の対策事業の発足や、全国の小中学校校長会を通じた波及につながりました。
「Safe Kids Japan」では、こうした多職種連携のスタイルでのシンポジウムを、2017〜2019年にかけて4回にわたり開催、これまでに6件の課題について検討・提言を行ってきました。取り上げたのは、いずれもゴール転倒事故と本質的に同じ問題構造をもつ課題で、組立体操やムカデ競争の事故、プール事故、跳び箱の事故などです。
多職種連携研究会では、ゴール、組体操、野球などの具体的なテーマに関して、効果的対策を発信。今年度は、朝日新聞の社会問題解決報道「子どもたち、守れますか?」等でも大きく取り上げられたこともあり、国や自治体などの行政を動かす結果につながりました。これを受けて、最近では、ゴールの固定を写真でチェックする仕組みに参加する学校も現れるなど、現場の意識改革も着実に進んでいます。
- 特定非営利活動法人 Safe Kids Japan
https://safekidsjapan.org