インタビュー 2021.04.28

宇宙飛行士・山崎直子さんに聞く、宇宙での体験と運動器の重要性とは?【3/3】

日本人女性として史上二番目の宇宙飛行士となった山崎直子さん。2010年にスペースシャトルに搭乗し、国際宇宙ステーションに滞在した際の勇姿をご記憶の方も多いはず。今回は、山崎直子さんに、宇宙飛行士になるまでの道程と、運動器にまつわる考え方を伺いました。今回は【2】の続きです。

宇宙での体験がもたらしたものとは?

 私は国際宇宙ステーションに15日間、滞在したのですが、地球に戻ってきて最初に感じるのは、やはり重力です。まず頭が重たいし、もっと言えば髪の毛すら重く感じます。平衡感覚も乱れて、1時間はフラフラして自立歩行できませんでした。脳が「歩け」と命じているのに、足が出ない、という感じですね。

 同時に、重力が愛おしくも感じます。例えば、足の裏を通して伝わる地面の感触、肌で感じる風のそよぎ……。宇宙にはこういうものが一切ないので、とても新鮮に思えるんです。

 スペースシャトルで宇宙に飛ぶ前は、早く地球を出たい一心だったんですが、いざ宇宙に行くと、窓から見えるのは真っ暗闇の風景。そこに唯一、地球だけが青く美しく輝いている。この宇宙で、地球だけがオアシスなんだ、と気づくんです。

 地球という存在の尊さが身にしみて、それこそ何気ない日常の営みが、とても貴重なものに思えてくる。そういう意味では、価値観が180度、変わりましたね。

山崎直子/1970年千葉県生まれ。東京大学工学部航空学科卒業。同大学院航空宇宙工学専攻修士課程を修了後、宇宙開発事業団(現JAXA)に勤務。99年に国際宇宙ステーション(ISS)に滞在する宇宙飛行士候補に選ばれる。10年4月から15日間の宇宙飛行を行う。現在、内閣府宇宙政策委員会委員など。

 

 宇宙には重力がないので、基本的にふわふわ浮かんで過ごすことになります。これはつまり、例えば足が不自由な方でも、宇宙ではまったく問題ないということ。地球ではハンデとされていることがそうでなくなるわけです。腰痛や肩こりもありませんしね。座高も少し伸びます(笑)

 ただ、地球にいきなり戻ると、一気に椎間板などが縮むからか、数ヶ月は体に違和感を感じます。だから、こうした症状を緩和するためにも、やはりこうした問題を解決してくださる専門医の力は必要になると思います。

 将来的にはサブオービタル(弾道)旅行も含め、宇宙に行く人がより増えていくと思います。宇宙では、当然ながら生身の人間は生きることはできません。だから宇宙船や宇宙服、そして仲間に頼ることになります。一人では生きることはできません。助けを求めることは何も恥ずかしいことじゃない。お互いに支え合いながら生きることが、楽しく生きるためには大切かなと思いますね。

 これもまた、整形外科医の先生に聞いたのですが、アリストテレスの言葉で、「Life is motion」というのがあるそうです。生きるということは、動くことである。体が動けば心も動く。つまり健康寿命というのは“幸せでいられる寿命”と言うこともできます。

 いかに楽しく人生を過ごすか――。これが充実した生き方のヒントになると思っています。日々の生活を大事にして、より積極的に体を動かしたいですね。

写真@NASA 取材・文◎田代智久

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