「運動器の健康」推進のグローバル戦略“ 「運動器の健康・国際運動」発表 部分訳
エグゼクティブ・サマリー (P1~P2)
(英文報告書の全文はG-MUSCのウェブサイトよりダウンロード可能)
- 本プロジェクトの目的
運動器の健康とは、筋肉、骨、関節、および隣接結合組織から成る人体の運動器システムの健康を指している。運動器の不具合には150以上の個別障害(例:関節炎、痛風、骨粗しょう症、脆弱性骨折、サルコペニア、自己免疫、リウマチ)、運動器の痛み(例:腰痛、頚部痛、線維筋痛)並びに運動器システムの外傷(例:スポーツ、労働災害および交通事故)がある。
運動器の健康は可動性、機敏さ、身体機能、社会参画そしてクオリティ・オブ・ライフの基本である。運動器の障害は痛み、障害、自分自身および他人との作業、活力源の低下を伴うもので、多くの人々を早期退職に追い込む。これらは個人のクオリティ・オブ・ライフ並びに家族と社会の繁栄に甚大な影響をもたらす。
世界的にも最大の身体障害は運動器のそれであり、特に腰痛はほぼ全ての国に於いて単一・最大の障害であると認められている。高所得の国々においては、運動器の不具合が健康に係る出費の中で最大のシェアを占めている。 リハビリを要する全ての状態の中で、運動器、なかんずく腰痛のリハビリが、世界的に最大である。大規模な民間の調査では運動器の障害増加が世界的に続くとみている。特に低・中間所得国に於いては人口の増加、老齢化、非伝染性の病気のリスク増大と運動器の外傷の増加によるところが大きい。
かかる深刻な予測は世界の健康システムと経済に厳しい警告を発している。即ち運動器の障害への対応例が増大を続け、失われた人的資源による経済的損失が飛躍的に増大する。運動器損傷の予防と対応改善、及び世界的に増大を続ける障害と経済的損失を食い止める為に、医療体制強化に向けた努力が早急に求められる。
・問題への取り組み
過去10年間、各国国内及び世界的にも非伝染性の病気と障害に伴う健康と経済的損失への関心が高まり、WHO、各国政府、民間活動団体から多くの提言がなされた。運動器の健康・世界運動(G-MUSC)は運動器の健康を各国及び国際的な患者、医療、科学団体がそれぞれの活動を強化・推進するためのネットワークである。G-MUSCは2020年に運動器の障害に対する健康上、社会的及び経済的損失に対処するための世界的な戦略対応を呼びかけた。この呼びかけに応じ、本報告書に盛られた作業プログラムは運動器の健康の世界戦略ブループリントの共同設計を世界の運動器の健康関連機関及び他のステークホルダーと作業し、協議することを目指している。
・このプロジェクトは何を達成したか?
このプロジェクトの目的は、完全な方策をではなく、将来必要とされる世界および、または国レベルで実施可能な医療制度を構築するための必要事項のブループリントを明らかにすることであった。重要なことはこのブループリントが実体験のある人々を含む世界的コミュニティーの協力と支持を得たことである。この作業は最終的にWHOに於いて第13次一般作業プログラムと他の国際機関の戦略的方向性の中で運動器の健康を優先することの支援、指導の促進することを目指している。
ブループリントの実行を促進するために次の3つの事項が取り組まれた。
- 質的研究:運動器の健康の世界的な現況を理解し、運動器の健康に於ける予防と改善に向けた世界的な施策を確認すること。
- 健康政策の調査:運動器の健康に関連する国の健康政策と戦略を調査して、その傾向と優先度を調べる。
- 世界規模のeデルファイ:世界の運動器の健康関係者と多岐に及ぶステークホルダーに上記の2調査の内容を提示して、検討並びにeデルファイ調査における優先順位づけを求める
- 調査結果の概観
質的調査には20の国々と25の上位国際団体よりなる31機関が参加した。
フェイズ1では、プログラム作業のロジック・モデルを作成し、運動器の健康に関わる世界戦略(エグゼクティブ・サマリー図1)の内容/アクションの枠組みを作り出すための質的調査が使用された。ロジック・モデルは5つの基本理念と8つの柱(戦略的優先分野)から成り立っている。
フェイズ2の健康政策の調査では22ヶ国と2地域から41の的確な政策資料を確定した。そして8つの優先政策を確認して、これらを理論モデルで確認された8つの柱と重ね合わせた。
最後のフェイズ3では72ヶ国に及ぶ674の複数分野にわたるステークホルダーを動員して、eデルファイ調査を展開した。これらデルファイ・パネリストには8つの柱と60の細分化された項目/アクションの重要性の格付けを行うよう求めた。そして最終的に8つの柱と59の内容/アクションの枠組みが支持された。(エグゼクティブ・サマリー図2)
- 報告書の利用方法
この報告書は8部門から構成されている。第1、2章は作業プログラムの背景と明確な目的、第3、4章は方法の概要と主要な結果、第5章は運動器の健康対策へのブループリント詳細、第6章は健康システムへの影響、 第7、8節は資料である。
(注:報告書のエッセンスが記載されている第5章は下記を参照)