気鋭の写真家・越智貴雄が義足の人を撮る理由。
写真で社会を変えていく
2013年には、『切断ヴィーナス』という、11人の義足の女性たちを撮影した写真展を開催し、翌年に同名の写真集も出版しました。これはパラアスリート用の義肢製作の第一人者で、義肢装具士の臼井 美男さんとの出会いがきっかけとなって生まれた企画です。
ある時、臼井さんとお話ししていて「義足を堂々と見せて歩ける女性はほとんどおらず、本人も家族も義足を隠したがることが多い」という話を聞いたんですね。僕はそれまでパラアスリートしか知りませんでしたが、考えてみれば、世の中にはその何百倍も義足で生活している人たちがいるわけです。
それなら、アスリートに限らず堂々と義足を見せている女性たちを撮影し、“隠すもの”という義足のイメージを変えられないか、と思い始めました。そこで、臼井さんをはじめとするさまざまな方にご協力いただき、撮影プロジェクトをスタート。被写体は、義足を着けた自分に誇りを持っている11人の女性たちです。
撮影にあたっては、できるだけ彼女たちが撮られたいイメージを優先。例えば義足を着けたまま海で泳ぎたいと希望する女性は伊豆の海まで行って水中で撮影し、ターミネーターのように撮ってほしいと言う女性は、特殊メイクを施して原宿の竹下通りのど真ん中でロケを敢行する、といった具合です。
2015年には被写体の女性たちによるファッションショーも実施し、多くのメディアに取り上げられると同時に、「義足姿の自分を撮ってほしい」と義足女性からの問い合わせも増えました。このプロジェクトを通して、“義足を見せる”という選択肢があることを、少しでも社会に伝えられたのかなと思います。
これまでファッションショーは全国各地で15回行い、昨年には第二弾となる写真集『切断ヴィーナス2』も出版しました。登場する女性たちは、第一弾の女性たちに比べると義足の自分に自信が持てない方が多かったんですが、勇気を出して被写体になってくれました。2014年頃とは大きな社会の変化を感じましたね。
そういえば、2020年に高輪ゲートウェイで切断ヴィーナスのファッションショーを開催したんですが、インドやイスラム圏のメディアの反応がすごくて。文化や宗教の違いもあり、日本で義足の女性たちがファッションショーをしていることが、かなりの驚きとともに報じられたという印象です。今後も、日本やアジアに限らず「切断ヴィーナス」というプロジェクトを世界中で展開していけたら嬉しいですね。
(取材・文◎田代智久)