インタビュー 2022.09.13

ダンサー・パパイヤ鈴木が考える 本当に“素敵”なダンスとは?

“イイ”の2文字を大切に

 もうかれこれ40年以上、ダンスの仕事を続けているわけですが、冒頭でお話ししたダンスの先生に教わったことは、今も大切にしていますね。例えば、よく言われたのは「ヘタクソなんだからうまく踊ろうとするな。ただしカッコよく踊れ」ということ。僕が踊りのステップを間違えても何も言わないんですが、カッコ悪いと感じるとめちゃくちゃ怒るんですよ。それがどういうことなのか、当時はいまいちピンとこなかったんですが、今になるとよくわかりますね。

 つまり踊っていて“素敵かどうか”なんですよね。素敵なダンスというのは、技術的につたなくても多少ヘタクソでも、魅力的に映る。逆に踊りのテクニックはスゴいのに、何も伝わらない人もいます。僕はカタカナ2文字で「イイ」という言葉を大事にしてるんですが、例えば“イイ男だねぇ”なんて言う時は、別にイケメンかどうかは関係ありませんよね。ダンスも同じで、うまいだけじゃ何とも思わないけど、イイものはグッと来る。技術云々じゃなくて、そこに人間性とか生き方とか情熱が表れて、それが心に刺さるんですね。

 僕は一時期、沖縄に住んでいたんですが、素人のおじいさんが三線を奏でながら琉球民謡かなんかをしみじみ歌い上げて、それに合わせて地元の人たちが楽しげに踊る光景をよく見かけました。そういうのって本当に“イイ”んですよ。うまいとか下手って感覚じゃなくて「素敵だなぁ」と思える。これが、先生の言っていた“カッコよさ”なんだろうな、と思うんですよね。

ダンスは日常生活の動きでできる

 最近、テレビの仕事などと並行して『パパイヤ鈴木の元気がでるダンス』(講談社)という本を出しました。これは、コロナ禍で運動不足に陥ったり、肩こりに悩む人のために考案した楽しいダンスが満載の入門書です。

 ダンスの世界での今の僕の存在意義は、未経験の人のゼロを1にすることだと考えています。ダンスの能力をレベルアップさせてくれる先生は世の中にたくさんいます。その中で、僕は、ダンスにまったく興味がない人や未経験者に「お、これならできそう。やってみるか」と重い腰をフッと上げてもらうことが仕事かなと思ってるんですね。

 そもそもダンスと聞くと、やったことがない人はみんな同じことを言うんです。「リズム感がないからできない」って。でもそんなもの、まったく必要ないですから。リズム感というのは、歌で言えば“コブシがきいてる”みたいな、いわばクセみたいなもの。そんなものは大したことじゃないんです。

 しかもダンスの動きって、実はほとんどが日常生活で誰もがやってる動きなんです。例えばタクシーを停めるために手を挙げますよね。それを左右交互に繰り返せば、それはもうダンスです。ドアをノックしたり、掃除機がけの動作も同じ。くるっと後ろを振り返るのも、2回繰り返せばターンです。カンタンでしょ?

 でもいざダンスを踊るとなると、何か特別なことをしている、という思い込みが強すぎて、音楽をかけた途端にロボットみたいにギクシャクしちゃう人が多い。逆にその動きのほうが難しいですよ、みたいな(笑)。普段の動きでいいんですよ。そういう誤解を解きたくて、この本を作りました。テレワーク中に座ったままできるダンスもたくさん収録しているので、ぜひ読んで気軽に挑戦してほしいですね。

(文・田代智久 撮影・西﨑進也)

PROFILE

パパイヤ鈴木/1966年東京生まれ。16歳でダンサーとしてデビューし、19歳まで活動。その後、振付師に転身し、86年にCBSソニーで振付・タップダンスのインストラクターを務め、98年に「パパイヤ鈴木とおやじダンサーズ」を結成。ダンサー・振付師として活動する傍ら、大河ドラマ、日曜劇場、ミュージカルなどにも出演するなど俳優としても活躍中。振付代表作品としてAKB48「恋するフォーチュンクッキー」、スズキ「ソリオ」CM等がある。

1 2 3

この記事をSHAREする

RELATED ARTICLE