スポーツ整形外科が語る「日本の野球少年の”肩と肘”はなぜ壊れやすいのか?」
日本の野球は投げることを中心に発展した
一方、日本では1872(明治5)年にアメリカからベースボールが当時の旧制一高に伝わった後、「野球ごっこ」という形で子供たちの間で広まっていきました。これはスポンジボールなどを利用した三角ベースのようなものでした。
その後、野球の人気は徐々に高まっていき、1915(大正4)年には、京都の学校の教師たちにより京都少年野球研究会が結成され、子供でも握れる軟式ボールが開発されます(軟式C球は直径68mm、硬式ボールは74mmであり、直径が約6mm小さい)。体に当たっても痛みの少ない軟式ボールを使った軟式野球は日本のオリジナルです。
軟式ボールは手の小さな子供でも投げられるため、日本では子供の時から投げることに重点が置かれ、発展していきます。同時に、投手を中心に守り抜く野球が日本のスタンダードになっていきました。そのため、どうしても投手に負荷がかかり、投手の投球過多が今でも問題になっているのは周知のとおりです。
日本の野球の教育的側面も肩肘障害を加速させている
また日本では学生野球が最初に発達したために、スポーツではあるものの、人間教育の側面が色濃いのも大きな特徴です。
早稲田大学の飛田穂洲監督(1886-1965)が唱えた「一球入魂」は日本独特の野球観と言えるでしょう。試合のために練習があるのではなく、練習そのものが自分を磨く機会であり、投手は数を投げ込むことによって無駄な力が抜け、技術も洗練されていく――。スポーツというよりも、武士道を思わせる「野球道」に近い思想です。
しかしこうした“精神野球”の世界においては、肩や肘の痛みで練習を休むことが“練習をサボる”とみなされ、「多少の痛みも我慢して投げねば上達しない」と考える指導者がいまだ多いのが現実です。このような親や指導者たちのケガや痛みへの無理解も、子どもたちの肩や肘の障害の治療の大きな壁になっています。