腰痛持ち必見! 鳥取県の白ねぎ生産者の腰痛を劇的に改善した「腰ラクラク白ねぎ体操」とは?
白ねぎ生産者の負担を減らす体操はこう生まれた
先述の通り、鳥取県の白ねぎ産業が活況を呈する一方で、問題となっていたのは、白ねぎ生産者の身体的な負担の大きさだった。昔に比べて機械化が進んだとはいえ、今も白ねぎを育てるのは大変な重労働なのだ。
もともと、鳥取県では2017年に白ねぎ生産者30名と、非従事者29名を対象に、腰痛の有無や状態、生活環境に関するアンケート調査を行っていた。その結果、54%の生産者が腰痛を認め、30%が腰痛で通院している、という実態が明らかになっていた。
「状況はわかってはいたのですが、農家の方のリアルな意見として、腰は痛いけど職業的にしょうがないよね、というある種の諦観がありました。それに接骨院に行ったらいいのか整形外科に行ったらいいのかわからないし、そもそも休めないから相談もできない、というような感じですね」(谷島さん・以下同)
こうした白ねぎ生産者の体の不調を改善するため、鳥取大学の医学部が中心となって考案したのが「腰ラクラク白ねぎ体操」だ。これを農業従事者たちが実践することで大きな改善がみられ、いま全国の行政や農業従事者から熱い視線を集めているのだ。
「きっかけは、プロジェクトメンバーで、同じ鳥取大学医学部の深田美香教授のお知り合いの方を通じて、白ねぎ農家さんの腰痛を何とかできないか? という相談が来たことでした。そこで深田教授が医師や理学療法士に相談し、白ねぎ生産者特有の腰痛の実態解明から始めた、というのが白ねぎ体操のそもそもの始まりです」
まずは鳥取大学医学部の保健学科が中心となって、2018年に白ねぎ作業改善プロジェクトが立ち上がった。
「白ねぎ生産者さんたちの就農環境の調査(身体評価・腰痛の発生状況・作業状況)を行った結果、土を抑える「とめ作業」、中腰状態が長く続く「収穫作業」、重いものを扱う「運搬」の3つに問題があることを突き止め、まずは農具や機械の改良・新開発による作業姿勢の改善に取り組みました」と谷島さん。
また、同時並行的に白ねぎ生産者のMRI検査を通して、身体的な評価も行っていった。
「事前予想としては、腰椎椎間板ヘルニアや狭窄症などの人が多いのかなと思っていたのですが、意外にもみんな正常だったんですよ。まぁ、一人だけ通院が必要そうな人はいましたが、ほかはみんな何の問題もありませんでした。ところが、筋肉量をみたところ、筋肉のバランスに問題があることがわかったんです」
谷島さんいわく、一般的には、筋力が弱ることで腰痛が引き起こされるが、白ねぎ生産者の場合、それとは逆に、筋肉が発達しすぎてバランスを失い、それが腰痛を招いていたというのだ。
「問題があったのは、脊柱起立筋群や腸腰筋のバランス。おそらく、白ねぎ栽培の過程で、日々同じ姿勢や行動をし続けた結果なのでしょうが、腹側の大腰筋が発達しており、逆に背中側の多裂筋が小さい人が多かった。このアンバランスな筋肉のつき方により体幹のバランスが崩れ、それが腰椎の過剰な動きを誘発することで、腰痛が生じているのではないかと。よって、背筋を鍛え、柔軟性を獲得できるストレッチが必要だと考えたのです」
そこで谷島さんらは2019年から生産者に腰痛に対する基礎知識の講演を行うと同時に、理学療法士の手を借り、腰痛予防の筋力強化やストレッチ指導も行っていく。その一環として考案されたのが「腰ラクラク白ねぎ体操」なのである。
この対策を持続可能なものにすべく、腰痛の基礎知識・身体負荷の少ない作業姿勢などを取りまとめ、Youtubeや鳥取県のホームページ「とりネット」に掲載している。
2023年からは、このプロジェクトで普及に取り組んだ腰痛対策の効果検証・現在の腰痛の実態調査、そして生産者への新たな腰痛対策のセミナーも開始。
「今後は、この効果検証で得られた結果をもとに、白ねぎ生産者以外の農業従事者にも活用してもらえる、新たな腰痛対策を考案していきたいですね」と次の目標を口にする谷島さん。この「腰ラクラク白ねぎ体操」、体操の内容はもちろん、撮影ロケーションも一風変わっていて面白いので、ぜひ一度YouTubeチャンネルで観ていただきたい。