50歳前後の更年期の手、肘のしびれー「あなたはどこがしびれていますか?」大阪行岡医療大学 医療学部 三木健司
50歳前後に「手がこわばる」「手が痺れる」などの経験をする女性が多くいます。「更年期だからかな」と放っておく人もいれば、初めての症状に不安になる人もいます。今回は、こうした更年期に起きやすい「手や肘のしびれ」について、大阪行岡医療大学 医療学部の三木健司教授に教えてもらいます。
しびれる場所・痛みのある場所から神経の支配が分かることが多いです。図1は、神経の支配領域を図示したものです。
肩関節部外側は第4頚神経、上腕外側は第5頚神経、前腕橈側は、第6頚神経、中指は第7頚神経、前腕尺側は第8頚神経、上腕内側は第1胸椎神経支配です。
神経の異常所見がある場合には、Tinelサイン(注1)という症状が出ることがあります。
次に、様々なしびれを起こす疾病を示します。
a、頚椎椎間板ヘルニア
神経根が圧迫障害されることにより、その支配領域に異常感覚を伴う上肢の部分に放散痛(ビリビリした痛みなど)があります。深部腱反射や神経学的異常反射、支配領域の筋力低下と知覚異常が見られることもあります。
b、胸郭出口症候群
腕神経叢が、鎖骨下動脈や鎖骨下静脈ともに圧迫されて発生します。種々の誘発テストにて診断されます。この症候群での痛みやしびれは、他疾患に比べその範囲が曖昧なことが多いです。消炎鎮痛薬は、無効なことが多いが、神経障害性治療薬と運動療法などの保存療法が選ばれることが多い。
c、肘部管症候群
尺骨神経が肘関節の尺側(小指側)にある肘部管にて圧迫絞扼され発症するものです。肘部管にTinelサイン(注1)があることが多く、尺骨神経支配領域の痛み、知覚障害、筋力低下、筋萎縮を伴います。この症状は、薬物療法にて根本的に改善することは少なく、電気生理学的検査にて診断が明らかで、筋萎縮を示すときは手術が第一選択となります。薬指や小指が伸びないなど「かぎ爪指変形」があるときには、早めに整形外科医を受診する必要があります。(図2)
d、手根管症候群
正中神経が手関節部の手根管内にて圧迫絞扼され発症するものです。症状は、示指、中指、薬指橈側(親指側)に知覚低下やしびれを訴え、主に夜間の強いしびれや痛みを訴える中年以降の女性が多く、整形外科医を受診するまでに母指対立筋の筋萎縮が見られることが多く、患者が軽症時には医療機関をあまり受診しない傾向があります。肘部管症候群と同様、電気生理学的な検査にて確定診断が行われます。電気生理学的検査にて診断が明らかで、筋萎縮を示すときは手術が第一選択となります。手術の効果は非常に高く、肘部管症候群よりも手術になる患者さんが多い。母指の付け根(母指球)がやせて母指と示指できれいな丸(OKサイン)ができないなどあれば早めに整形外科医の受診が必要です。(図3)
e、ギオン管症候群
尺骨神経が豆状骨と有鉤骨の間にあるギオン管にて圧迫絞扼されるものである。この部位にて運動枝が分枝するため、知覚障害のみ、運動障害のみの障害が見られることがあり、診断に注意を要する。おもな症状は、手内筋の筋萎縮や小指の掌側の知覚異常である。肘部管症候群では無く、ギオン管の障害が確定されたときは、ギオン管手術が選択される。しびれや知覚異常が強いときは薬物治療の対象となるが、手根管症候群など他の絞扼性神経障害に比べると症状が軽度のため少ない。
上記のような様々な病態があります。しかし、double-crushと呼ばれる同時に複数の部位の神経障害も存在することあります。つまり、上肢(肘、手)の痛み・しびれの診察にも必ず頚椎、頚部、胸郭部の診察を受けて頂き、他の部位の問題も無いかを確認して貰う必要があります。
上記のような治療の必要な疾病もありますが、更年期以降のしびれには、末梢神経障害とされる、治療のあまり必要ない「しびれだけがあり、運動神経には影響を与えていない」状態もあります。しびれがあっても、手指、肘、肩などに運動の異常がなく、その部分の関節も動きや筋力に異常がない時は、重大な問題は無いでしょう。まずしびれがあったら、しびれのある部分を自分で動かしてみて、いつもと同じ様に動けば、心配はありません。ただしびれが2週間以上続けば、かかりつけの整形外科医に相談してみましょう。
(注1)「Tinelサイン 神経の走行部位を指先で叩くことにより、支配領域に電撃痛や痺れが生じる。絞扼性神経障害や椎間板ヘルニアなど神経障害性疼痛の原因場所である可能性がある。」
肘・手の痛みについて 各種治療手技の実際と注意点 薬物治療 三木健司
「運動器の痛み プライマリケア 肘・手の痛み」104-110、2011年7月10日 南江堂 東京都